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大阪高等裁判所 昭和57年(ネ)152号 判決

控訴人 山田好雄

右訴訟代理人弁護士 河上泰廣

同 中村真喜子

同 三好邦幸

被控訴人 株式会社オリエントファイナンス

右代表者代表取締役 木谷義高

右訴訟代理人弁護士 細川俊彦

同 阪本政敬

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被控訴人は、昭和五五年四月一八日訴外山田建設株式会社(以下「山田建設」という。)との間に左記要旨によるリース契約(以下「本件リース契約」という。)を締結した。

(一) リース物件 業務用簡易無線機(以下「本件無線機」という。)

(二) リース物件価額 金九五万円

(三) リース期間 昭和五五年四月から七二か月間

(四) リース料総額 金一三九万五三六〇円

(五) 支払方法 月額リース料金一万九三八〇円を毎月二七日限り被控訴人に持参または送金して支払う。

(六) 遅延損害金 日歩四銭

(七) 山田建設が契約に違反して支払を怠ったときは、被控訴人は本件リース契約を解除することができ、右契約が解除されたときは、山田建設は残存リース期間の合計リース料を損害賠償金として被控訴人に支払う。

2  控訴人は、昭和五五年四月一六日本件リース契約に基づく債務を予め連帯保証する旨約した。

3  しかるに山田建設は全く支払をなさないので、被控訴人は昭和五六年八月三日本件リース契約を解除した。

よって、被控訴人は控訴人に対し、保証債務の履行として昭和五五年四月分から昭和五六年八月三日までの未払リース料金及び同月四日以降のリース料相当の損害賠償金の合計金一三九万五三六〇円及びこれに対する昭和五六年八月三日から支払ずみに至るまで約定の日歩四銭の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2の事実及び同3の事実のうち、山田建設がリース料の支払をなしていないことは認める。

三  抗弁

1  山田建設は、訴外有限会社片岡通信機(以下「片岡通信機」という。)の勧めにより、本件無線機を購入することとしたが、それは出張先の従業員と会社(富田林市所在)との間で緊密な連絡をとることが目的であった。そして山田建設の従業員の出張先は大阪府下全域に及ぶため、通信可能範囲は半径四〇キロメートル必要であるところ、山田建設はその旨を片岡通信機に申し伝えており、同社もこれを了承して右能力を備えた無線機を納入する旨確約した。

2  ところが、片岡通信機が納入した本件無線機は、両社の担当者により性能確認のため試験通信をしたところ、約五キロメートルの距離でも安定した通信ができなかった。そこで、山田建設は、これでは到底前記目的を達することができないので、片岡通信機に対し、その旨及び他の無線機に変更する等の善処分を申し入れたが、片岡通信機は全くこれに応じないので、昭和五七年五月二七日に本件無線機の売買契約を解除する旨の意思表示をなした。

3  以上により、本件無線機には契約目的を達することができない根本的な瑕疵を有するものであって、そのため、被控訴人主張のリース料等について山田建設にはその支払義務はなく、従って右連帯保証人である控訴人にもその支払義務はない。

四  抗弁に対する認否及び被控訴人の主張

1  抗弁1の事実は不知

2  同2の事実は不知

控訴人主張の売買契約の解除については、被控訴人に対する関係においてはその効力を争う。

3  同3の事実及び主張は争う。

4  本件無線機のリース契約は、いわゆるファイナンス・リース契約というものであって、仮に控訴人が主張するようにリース物件が予定する性能を欠く場合であっても、控訴人はリース料の支払義務を負うものである。

すなわち、山田建設は、予め無線機の販売元である片岡通信機と種々協議をし、自らの業務に最も適すると考えた無線機の機種を選定したうえ、被控訴人はそのリースを申し入れたのである。そこで被控訴人は片岡通信機に一括して売買代金を支払って山田建設の希望する当該無線機の所有権を取得して、これを山田建設に賃貸する形式をとったが、その実質は被控訴人が山田建設のために単に売買代金を融資したに過ぎないのである。

いずれにせよ、本件無線機の選定については、山田建設が深く関与しているが、被控訴人が関与したことは一切なく、また、本件無線機が山田建設の希望する性能を備えることを保証したこともない。被控訴人と山田建設との間で取決められた内容の実質は、被控訴人が一定の金員を融通し、山田建設が月々返済することにあり、それに尽きるのである。本件リース契約においても、被控訴人の瑕疵担保責任は免除されており、本件無線機が山田建設の期待した性能を備えていないときでも、山田建設は被控訴人に対し、右事実をもって、リース料の支払を拒絶することはできないのである。従って、山田建設の連帯保証人である控訴人もリース料の支払を拒む理由はないのである。

五  控訴人の反論

1  本件のように、商品販売契約にクレジット契約がセットとなっている場合には、販売会社から商品の引渡がないことや瑕疵を理由として、買主が販売会社との売買契約を解除しても、買主は信販会社からのいわゆる立替金請求を拒めない旨の条項(抗弁権の切断条項)が定められており、本件リース契約においても同様の定めがある。

2  しかしながら、右条項の効力をそのまま認めることは買主である一般消費者を一方的に不利な立場に立たしめるものであり、しかも、クレジット契約が締結される際には、かような抗弁権の切断されることの説明は、販売会社はもとより信販会社よりもなされない現状に鑑みれば、信義則に違反するものといわざるを得ない。

3  また、経済的側面から考えても、販売会社とクレジット会社との間には、継続的かつ実質的資金供給の関係が存在するものである。そうであるならば、商品販売契約とクレジット契約は一体不可分の関係にあるとみるべきであり、抗弁権の切断条項はその意味からも不当である。

第三証拠《省略》

理由

一  被控訴人と山田建設との間に本件リース契約が締結され、控訴人が右リース契約に基づく債務について連帯保証をなしたこと及び山田建設が本件無線機の瑕疵を理由に所定のリース料金を支払っていないことは当事者間に争いがない。

二  控訴人は、本件無線機には契約の目的を達することができない瑕疵が存する旨主張する。

《証拠省略》を総合すれば、山田建設は、片岡通信機の田淵一広から工事現場との連絡用として無線機の購入を勧められたこと、その際、山田建設は、現場が岸和田にある旨述べたところ、田淵は四〇キロメートル以内であれば交信が可能であると述べ、また、その後片岡通信機の片岡邦博専務も同様のことを述べたので購入することとしたこと、山田建設は当初「ヤエス」の無線機を購入する予定であったところ、片岡通信機の都合により「マランツ」の無線機となったが、その際には片岡が「マランツ」の方が「ヤエス」より性能がよい旨述べたので、マランツの本件無線機を購入することとなったこと、しかしながら、現実に本件無線機を取付け、山田建設、片岡通信機及び日本マランツの各担当者が立会って試験交信したところ、山田建設の本社のある富田林市内でも充分な交信ができない状態であったこと、その後いく度が調整したものの結局同じであったため、山田建設は片岡通信機に対し口頭で本件無線機の売買契約を解除する旨の意思表示をしたこと、そして、そもそも本件無線機は、アンテナを一〇メートルに上げても平地でせいぜい一〇キロメートル程度しか交信できない無線機であること、以上の事実が認められる。

右の事実によれば、山田建設は片岡通信機から四〇キロメートル交信可能である旨約されたので本件無線機を購入することにしたにもかかわらず、本件無線機は平地でもせいぜい一〇キロメートル程度しか交信できない無線機であって、契約目的を達することができない瑕疵を有する物件であるといわなければならない。

三  そこで、リース物件の瑕疵を理由としてリース料の支払を拒絶し得るかについて検討する。

《証拠省略》によれば、本件リース契約の契約書には、賃借人からの期間中の解約の禁止条項(第六条一項)、リース会社の瑕疵担保責任及び保全修理義務の免除条項(第八条及び第一二条)及び契約違反の場合のリース料残額全部についての期限の利益喪失条項(第二三条一項)等の条項が規定されていることが認められ、また、山田建設と被控訴人間の本件リース契約の成立の経緯は必ずしも明らかではないが、山田建設が片岡通信機から本件無線機を購入するに際し本件リース契約が締結されたことに照らせば、本件リース契約はいわゆるファイナンス・リース契約(賃借人がある物件を必要とするが、その資金がない場合、リース会社が右目的物を売主から買取り、これを賃借人に貸与して一定額のリース料を回収するものであって、経済的には賃借人に対する金融手段としての性格を有する。)であると認められ、被控訴人が片岡通信機に何時売買代金を支払ったか必ずしも明らかではないが、《証拠省略》によれば山田建設が昭和五五年四月一八日に本件無線機を借受け、同月二〇日被控訴人において受付られていることに照らせば、そのころ被控訴人が片岡通信機に売買代金を全額支払ったものと認められる。

控訴人は、被控訴人がリース物件の瑕疵についてその責任を負わないことは信義則に反する旨主張するが、本件リース契約は前記のとおりファイナンス・リース契約であって、ファイナンス・リース契約は、リース会社と売主間、リース会社と借主間、売主と借主間の三個の別個独立した契約から成立っており、特段の事情のない限り一つの契約の有効・無効は当然には他の契約の成立ないしはその効力に影響を及ぼさないといわなければならず、被控訴人が本件無線機の選定に関与したり、本件リース契約の締結に際し、本件無線機が控訴人主張の性能を有することを保証したことを認めるに足りる証拠もなく、また、山田建設としては、売主である片岡通信機に対して瑕疵担保責任を追及することが可能であることに照らせば、被控訴人が担保責任を負わないことは信義則に反するとはいえず、山田建設ないしは控訴人は本件リース物件の瑕疵を理由として、リース料の支払を拒絶し得ないといわなければならない。

四  被控訴人が、山田建設のリース料不払を理由として昭和五六年八月三日本件リース契約を解除したことについて、控訴人は明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。そうであれば、控訴人は被控訴人に対し、保証債務の履行として昭和五五年四月分から昭和五六年八月三日までの未払リース料金及び同月四日以降のリース料相当の損害賠償金の合計金一三九万五三六〇円及びこれに対する昭和五六年八月三日から支払ずみに至るまで約定の日歩四銭の割合による遅延損害金を支払う義務が存することは明らかである。

五  よって、被控訴人の請求を認容した原判決は正当であって本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大野千里 裁判官 田坂友男 島田清次郎)

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